米国の鉄鋼関税が拡大
トランプ政権による鉄鋼・アルミニウム関税は、企業に予期せぬ負担を強いている。米国政府は、鉄鋼とアルミニウムを使用した製品を税制上の「派生商品」に指定しており、建設機械から食器まで、これまでに約720品目を指定している。対象品目は段階的に拡大しており、あらゆるセクターに影響を及ぼしている。
派生商品の課税構造は複雑である。まず、製品は鉄鋼・アルミニウム部品とそれ以外の部分に分けられる。鉄鋼・アルミニウム部品の購入価格には50%の関税が課される。次に、鉄鋼・アルミニウム部品の購入価格を除いた取引価格にも、同額の関税が課される。日本製建設機械の場合、同額の関税は15%である。
米国政府は3月に鉄鋼・アルミニウム関税を全面的に発動した際、280品目以上を派生商品に指定した。4月から6月にかけては、缶ビールと白物家電も対象に追加された。 8月には、建設機械、工作機械、芝刈り機、食器など420以上のカテゴリーが追加されました。現在までにデリバティブ品に指定された品目は720を超えています。
米国商務省は、新規対象品目の申請を年3回受け付けています。8月に追加された420以上のカテゴリーは5月に申請され、9月分の申請は29日に締め切られました。
本来相互関税のみの対象となるべき品目が鉄鋼とアルミニウムの関税対象となれば、企業の負担コストは増大します。牧野フライス製作所は、8月に工作機械1機種が関税の対象となるため、米国での価格上昇は避けられないと考えています。
芝刈り機を米国に輸出している日本の電動工具メーカー、ヤマヒコは、関税の算定基準をまだ十分に把握しておらず、影響を正確に見積もることができません。日本の大手ベアリングメーカーの担当者は、「鉄鋼とアルミの関税が明確に定義されていないと、価格転嫁は難しい」と懸念を示した。
鉄鋼とアルミの関税を派生製品にまで拡大する仕組みは、トランプ政権の第1期目から導入されている。当初の目的は、鉄鋼をねじなどに加工して輸出することで関税を回避する「関税回避」に対抗することだった。
第2期目では、対象が米国の業界団体や企業の要求を満たす製品にまで拡大され、米国による生産特恵政策の色合いが強まっている。
企業や業界団体の危機感は高まっている。
建設機械の業界団体である日本建設機械工業会(東京都港区)は9月初旬、米国に対し、鉄鋼とアルミの関税対象から建設機械を除外するよう求める要望書を日本政府に提出した。
2024年度の日本の建設・鉱山機械の対米輸出額は8000億円を超え、対米輸出総額の4%を占める見込みだ。8月のこの分野の対米輸出額は前年同月比26%減少した。
洋食器メーカーが集積する新潟県燕三条地域も影響を受けている。スプーン、フォーク、ナイフは8月に関税引き上げの対象となった。
売上高の20~30%を対米輸出に占める山崎金属工業(新潟県燕市)は、値上げによって定番製品の売上が減少することを懸念している。「消費者が値上げを受け入れなければ、トランプ大統領は任期中に米国での販売停止を検討するだろう」と山崎副社長の秀治氏は述べ、不満を露わにした。
スプーンなどをOEM生産するアサヒ(新潟県燕市)は「受注が減る可能性がある」と懸念を示した。中小企業は関税に関する情報入手にも苦労している。燕市の日本金属洋食器工業組合や燕商工会議所などは10月に経済産業省を訪れ、関税対応計画に関する情報収集を行う予定だ。
日米が7月に合意した自動車・同部品の相互関税率は15%となる。関税率が確定すれば、企業は関税コストを吸収できる事業戦略を立てやすくなるはずだ。
しかし、鉄鋼・アルミ関税によってこの計画は頓挫した。企業は今後も派生商品として取り込まれるリスクを負うことになる。武藤善治経済産業大臣は9月19日の閣議後の記者会見で、米国の鉄鋼・アルミニウム関税拡大について、「関係業界と連携し、影響について精査していく」と述べた。
鉄鋼やアルミニウムを使用していない製品でも同様の問題が生じる可能性がある。米国では、自動車部品への関税に派生製品への追加適用制度も含まれている。トランプ政権は半導体や木材への関税も検討している。木材関税が導入されれば、同様の制度を設けることで、木材を使用するすべての製品が対象となる可能性がある。
米国は9月、鉄鋼・アルミニウム関税に加え、工作機械や医療機器などの分野にも関税の必要性について調査を開始した。工作機械業界は、最終的にどのような関税が課されるのか、混乱している。
米国の裁判所は現在、相互関税が違憲かどうかについて審理を行っている。 APCOワールドワイドのジョン・ラング氏によると、たとえ違憲と判断されたとしても、「派生商品の範囲を拡大することで、相互関税の大部分は工業関税でカバーできる」と多くの専門家は考えている。