アドバンテストの時価総額が20年ぶりに東京エレクトロンを上回る
日本の半導体製造装置メーカーに対する市場評価に変化が生じている。9月10日、アドバンテストの時価総額は、約20年ぶりに国内半導体大手の東京エレクトロン(TEL)の時価総額を上回り、初めて10兆円を超えた。人工知能(AI)の需要が高まり、半導体製造に必要な技術が変化する中で、より高い成長期待を持つアドバンテストに資金が流入している。
アドバンテストの株価は9月10日、前日比3%上昇の13,140円と一時上昇し、上場来高値を更新した。前日には、米半導体大手NVIDIAが2026年末までにAI向け半導体の新製品を投入する計画を発表し、主要サプライヤーと目されるアドバンテストの成長期待が高まった。アドバンテストの株価は同日、3%高の13,125円で取引を終えた。
終値ベースで、アドバンテストの時価総額は10兆556億円となり、国内でわずか20社程度しか存在しない「10兆円クラブ」に加わった。同社の時価総額は、それまで製造装置メーカーのトップだった東京エレクトロン(9兆9750億円)を上回った。両社の時価総額が逆転したのは、2006年3月以来、19年半ぶりとなる。
JPモルガン証券のアナリスト、加納未央氏は、「半導体業界では、技術革新の焦点が『前工程』から『後工程』(製造工程の最終段階に相当)に移り、投資家の投資対象も変化している」と指摘する。さらに、「特にアドバンテストの場合、テスト時間の長期化を背景とした成長ロジックが明確であり、資金が流入している」と付け加えた。
半導体製造装置メーカーの評価は、歴史的に半導体製造技術の進歩とともに変動してきた。 1990年代のパソコンから2000年代のスマートフォンに至るまで、半導体の性能は新しい電子機器製品が登場するたびに向上し続けてきました。
初期の技術革新を牽引したのは、半導体製造工程においてウェハ上に微細な回路パターンを形成する「前工程」と呼ばれる装置でした。東京エレクトロンは、前工程と呼ばれる成膜やレジスト現像に加え、回路形成のためのエッチングや洗浄工程まで幅広い製品ポートフォリオを誇り、半導体の微細化競争の恩恵を大きく受けてきました。
2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響で半導体の需給関係が逼迫しました。半導体装置の需要増加への期待から、東京エレクトロンの株価は急上昇しました。2024年4月には、東京エレクトロンとアドバンテストの時価総額の差は約14兆円にまで拡大しました。
しかし、半導体の微細化は限界を迎えつつあります。人工知能(AI)の普及と半導体の高性能化に伴い、半導体チップを垂直に積層したり、複数の異なる機能を持つチップを集積したりする技術がますます普及しています。
半導体構造の複雑化が進む中、試験装置を専門とするアドバンテストが大きな注目を集めています。半導体製造のコストと難易度が上昇する中で、半導体メーカーにとって歩留まり(良品率)の向上がますます重要になり、試験装置の需要が高まっています。アドバンテストの株価は2024年10月以降、力強く上昇しており、時価総額は2023年末比で2.7倍に増加しました。
東京エレクトロンは、AIサーバー向け最先端半導体装置の販売で中長期的な成長を見込んでいますが、足元の業績は低迷しています。一部顧客の投資計画の見直しや中国での売上減少が足かせとなり、7月に2025年度(2026年3月期)の純利益予想を18%下方修正しました。一方、アドバンテストは利益予想を上方修正しました。
アドバンテストは、2024年までにテスト装置の市場シェアを58%にまで拡大し、その高いシェアを活かしてAI関連需要を的確に捉えています。一方、東京エレクトロンは、塗布・現像分野以外では20%から30%にとどまっています。スマートフォンやパソコン向けNAND型フラッシュメモリへの投資停滞も逆風となっています。装置の機種構成や最終製品の用途が多岐にわたることが、むしろ業績の足かせとなっています。
東京エレクトロンに関しては、8月に台湾子会社の元従業員がTSMCから機密情報を不正に取得した疑いで台湾当局の捜査を受けているとの報道がありました。TSMCは東京エレクトロンの主要顧客であり、両社関係の悪化が業績に及ぼす影響への懸念が東京エレクトロンの株価を圧迫しています。
株式市場では、アドバンテストの株価優位が今後も続くとの見方が多く見られます。アドバンテストの予想PER(株価収益率)は約43倍と、東京エレクトロンの21倍を大きく上回っているものの、岩井コスモ証券シニアアナリストの斉藤和義氏は「AI市場の今後の拡大を考えると、この水準は決して割高ではない」と指摘した。
世界では、最先端の露光装置でトップシェアを誇るオランダのASMLホールディングスの時価総額は46兆円、前工程装置でトップの地位を占める米国のアプライド・マテリアルズの時価総額は19兆円と、いずれも大きくリードしている。世界市場との差を縮めるには、アドバンテストは着実に業績を向上させ、市場の高い成長期待を維持しなければならない。