日本円は下落するでしょうか?
「プラザ合意2.0」への懸念が和らぎ、円安は進むか?
為替市場ではドル高への転換を示唆する声が上がっている。米国と欧州連合(EU)間の関税交渉が合意に至ったことを受け、7月28日はドルが全面高となった。ドル高期待を後押しした要因の一つは、トランプ大統領の通貨レトリックの変化だ。ドル安への意欲が薄れたことで、「プラザ合意2.0」への懸念は和らいだ。
7月28日の欧米市場の取引時間中、ドルは大幅に上昇した。関税が欧州経済に打撃を与えるとの懸念も、ユーロ売り・ドル買いを強めた。
主要通貨に対するドルの総合的な強さを示すドルインデックスは、97.4から98.5~98.9へと急上昇し、抵抗線となっていた50日移動平均線を突破した。29日の東京市場では、円は1ドル=148.70円まで上昇し、円売り買いが活発化した。
日銀による追加利上げ観測や米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ時期、そして石破茂首相の去就への懸念などが複雑に絡み合い、円相場は双方向に変動する。こうした状況下で、トランプ米大統領の発言の波がドルを支えている。
トランプ氏は7月25日、「私は『強いドル』の支持者だ。『弱い通貨』が好きだと言うことは決してない」と述べた。ドル安が輸出競争力の向上に及ぼす影響を強調しながらも、為替レートに関する発言は修正されたようだ。
トランプ大統領は就任前、日本や中国といった国々を「誘発された通貨切り下げ」と繰り返し批判してきた。今年3月には、「日本の円であれ中国の人民元であれ、もし彼らが自国通貨を切り下げれば、我々は非常に不当な不利益を被ることになる」と発言した。
トランプ大統領がドル安を望んでいるという見方が市場を席巻し、「マール・ア・ラーゴ合意」や「プラザ合意2.0」といった、他国との共同介入によるドル高是正を目的とした合意が広く議論されている。日米交渉は関税にとどまらず、円安是正の提案も含まれる可能性があるとの見方も高まっている。
しかしながら、トランプ大統領は現在、米国株、債券、通貨という「三重の脅威」に直面している。これは、4月以降、FRB(連邦準備制度理事会)への利下げ圧力とパウエル議長の辞任要求が強まり、金融市場で米国資産離れが鮮明になったためだ。
りそなホールディングスのシニアストラテジスト、井口恵一氏は、「トランプ大統領は実際にはドル安を望んでいるかもしれないが、米国からの資本流出を加速させる可能性もあり、公にそれを表明するのは難しい」と指摘する。
ドル安は輸出収益の改善だけでなく、物価上昇にもつながる可能性がある。「こうしたジレンマを考えると、ドルに対して曖昧なスタンスを取らざるを得ないかもしれない」と、岡三証券のシニアストラテジスト、武部隆氏は述べた。
各国・地域との関税交渉の拡大に加え、米国経済の堅調さが持続していることから、市場はドルへの回帰の機会を模索している。三井住友銀行外国為替トレーディング部部長の納谷卓也氏は、「『米国唯一の超大国』という認識が強まり、ドル買いが強まれば、円は1ドル150円まで下落する可能性がある」と見ている。
市場参加者が注視するテクニカル分析ツール「一目均衡表」にも変化が訪れた。実際の価格変動を示すKラインチャートと、中期的なトレンドを示す5本の補助線を組み合わせたチャートは、FXブローカーなどのプロだけでなく、個人投資家も相場動向を把握するために活用している。
一目均衡表では、強気相場のシグナルとされる「3つの上昇」、すなわち(1)転換線が基準線を上抜ける、(2)遅行線がKラインを上抜ける、(3)Kラインが集中エリアを突破する、が点灯した。
また、Kラインは7月24日頃に基準線(145.90円付近)からドル高・円安方向に反発し、28日には転換線(147.50円付近)を明確に上抜けました。「チャートはドル高の強いシグナルを示している」と、テラス証券アドバイザーズのFXエバンジェリスト、遠藤久幸氏は述べています。
為替市場では、7月16日に形成された149.10円のレンジが円安方向の節目として認識されているほか、200日移動平均線である149.60円のレンジも意識されています。これらの水準を下抜ければ、円売り・ドル買いが加速する可能性があります。