花王、Z世代向け高価格帯ヘアケア製品を発売
花王株式会社は7月29日、Z世代をターゲットとしたヘアケアの新製品を発売した。花王はこれまでマスブランドに注力してきたが、I-neの「YOLU」など新興ブランドがプレミアム市場で台頭しつつある。花王は2024年以降、30代・40代向けの高価格帯製品を投入し、これらのブランドに対抗していく。花王はこれらの新製品を総合的に展開することで、マスブランド依存からの脱却を図り、若年層への浸透を目指す。
同日行われた記者会見で、花王ヘアケア事業部ブランドマネージャーの野原聡氏は、「SNSなどで理想の自分をヘアスタイルやカラーで表現する若者が増えています。お気に入りのヘアスタイルで、喜びを感じてもらえれば」と述べた。
1,400円以上の高価格帯製品の第3弾となる「MEMEME」は、8月9日よりドラッグストアを含む約1万店で発売される。シャンプー、コンディショナーなど4品を展開しています。
ターゲットは10代から20代のZ世代。「自分のカワイイを見せる=私のカワイイ」をコンセプトに、アイドルやファッションに憧れるように、喜びを感じられるヘアケア製品の開発を目指しています。商品名「MEMEME」には、ありのままの「自分」を表現したいというZ世代の感傷的な思いが込められています。
最大の特徴は、わずか10秒で塗布できる「時短」コンディショナーです。通常、コンディショナーは60秒かけて塗布しますが、本製品は独自の処方により濡れた髪に素早く浸透し、塗布時間を大幅に短縮します。
店頭価格は、シャンプー、コンディショナーともに1,540円(約75.2元)です。この価格は、30代向けの第一弾「MELT」、そして40代向けの第二弾「THE ANSWER」よりも約10%低く、より若い世代にも手に取りやすい価格設定となっています。また、シャワー後に使用するコンディショナーとヘアオイルも同時発売されます。
日本では、物価高騰を背景に、必要なものだけを選ぶ「スマートスペンディング」の傾向が高まっています。消費財メーカーは、既存のマスマーケット向け製品に加え、プレミアムな製品を投入しています。花王は、この目利きの消費者層であるZ世代に向けた高価格帯製品を投入することで、その獲得を目指します。
花王は、Z世代の感性を理解するため、若者の消費行動に詳しいマーケティング機関であるSHIBUYA109 lab.と提携し、2024年5月から7月にかけて、10代から20代の5人を対象に定性調査を実施しました。
まず、60分間の個別インタビューを通して、ブランドコンセプト、パッケージ、香りに対する印象を丁寧にヒアリングし、その回答に基づいてデザインをブラッシュアップしました。その後、2週間かけてサンプルを試用し、ソーシャルメディアでのコンテンツ共有も検討しました。デザインにおいては、ユーザー生成コンテンツ(UGC)の可能性も考慮しました。
若者の躍動感を表現した赤い容器は、「気分が上がる」「部屋に置きたい」といった好評を博しました。インフルエンサーにもフィードバックを求めました。
花王は、700円前後で販売されるメリットなどの手頃な価格のマスマーケットブランドに注力することで、日本のスキンケア市場におけるリーディングポジションを維持しています。しかし、高価格帯セグメントの急速な拡大に伴い、市場シェアはピーク時の2009年の22.7%から2023年には12%に低下しました。
高価格帯セグメントの市場シェアは、2017年の16%から2024年には50%に拡大すると予測されています。花王は、プレミアムセグメントを牽引するI-neの「YOLU」などの新興ブランドとの競争に直面し、2024年に市場に参入しました。開発スピードと市場対応力を向上させるため、マーケティング、デザイン、研究部門を横断した「SCRUMミーティング」を導入し、ソーシャルメディアを中心としたブランドプロモーションへと転換し、感情的なエンゲージメントを重視しました。
花王は、「メルト」や「THE ANSWER」といった高価格帯製品を相次いで発売し、好調な業績を上げています。1年後には市場シェアは4位にまで上昇しました。ヘアケア市場全体におけるシェアも拡大し始めています。
JPモルガン証券のシニアアナリスト、桑原明子氏は、「競争が激化する中で、力強い成長モメンタムを維持することが重要な課題だ。海外事業の活性化も不可欠だ」と指摘した。
花王の国内ヘアケア事業は年間約500億円で、売上高全体の約3%を占める。ピーク時には20%を超えていた営業利益率は10%程度に低下している。同社はプレミアムブランドの成長により、2027年までに利益率を20%以上に回復させることを目指している。
積極的株主であるオアシス・マネジメントが低収益ブランドの縮小を訴えてから1年が経過した。「MEMEME」の発売は、花王のヘアケア製品改革の最終段階となる。低迷する市場シェアと収益の改善に向けた花王の取り組みにおいて、正念場となるだろう。