円安はまだ終息していない

円の対米ドル為替レートは1ドル=145円台で推移しており、150円を超える円安は終息したかに見えている。しかし、円高を押し上げたのは米ドル安のみであり、円安自体は完全に終息したわけではない。根本的な原因は「日本の弱さ」にあり、これを是正できるかどうかが、円安の真の反転を決定づけるだろう。

ある邦銀の為替ブローカーは、「まだ確定はできないものの、為替市場で新日鉄の買収に関連する取引がある可能性はある」と指摘する。新日鉄によるUSスチールの買収は6月18日に正式に完了し、買収金額は約141億ドル(約2兆円)だった。この買収資金を賄うために新日鉄が米ドルを調達していることが、為替市場の注目点の一つとなっている。

上記ブローカーは、「5月27日からの2日間で円は4円安になった。6月上旬にも2日間で約2円の変動があった。この水準であれば資金が流入する可能性がある」と見ている。その全てが外国為替市場での取引によるものではないものの、2兆円という規模で見ると、2024年7月12日の日本銀行による円買い介入(2兆3,670億円)に匹敵する。

外国為替市場では、一見すると円高方向に動いているように見える。円ドル為替レートは、円とドルの相対的な価値の変化を示すものだ。円ドル高の要因は、「円高要因」と「ドル安要因」に分けられる。

2025年初頭以降、円高ドル安は後者の圧力によって牽引されてきた。米国の関税政策の影響を受けて、米ドル偏重の資産配分を見直す世界的な潮流が強まり、米ドルは単独で下落した。主要通貨に対する米ドルの強さを示す米ドルインデックスは、2024年末から一時9%下落し、3年ぶりの安値を付けた。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの最高投資責任者(CIO)である新原健介氏は、「近年の米ドルの実勢レートは歴史的に見て高い水準で推移していた。トランプ大統領の就任以降、米ドルには『売られる理由』が生まれ、米ドル高の調整が始まった」と指摘した。

ドル以外の通貨に対する円高は限定的である。 6月20日、円は対ユーロで2024年7月以来、対スイスフランと対台湾ドルで2025年初頭以来の安値を記録しました。

日本銀行(中央銀行)は1月に利上げを実施しました。利上げは通常、通貨高につながります。この間、投機資金による円買いは過去最高額に膨らみましたが、「ドル以外の通貨に対する円の為替レートは、驚くほど上昇することはありませんでした」(別の邦銀ブローカー)。

2021年以降の円安の要因の一つは、「構造的な円売り」です。その根深い原因は、新日鉄M&Aなど、日本企業による海外事業展開のための直接投資です。

今後、投機資金の売買は必然的に逆指値取引を伴うため、相場の方向性を見極めることは困難です。しかし、直接投資は逆指値取引が発生しにくいため、一方的な円売り圧力となります。

財務省の統計によると、2024年の対外直接投資は、実績から回収額を差し引いた純投資額が32兆円と過去最高を記録しています。対外投資は月間2.6兆円に達しているのに対し、国内投資は月間約3,000億円と、大きな差があります。

バンク・オブ・アメリカ証券のチーフ日本為替・金利ストラテジスト、山田修介氏は、「世界経済の不確実性が高まると、日本企業は守りの姿勢を強め、国内設備投資と株主還元に注力する可能性がある。しかし、長期的には、日本の少子高齢化が企業の海外投資を促進するだろう」と述べています。

日本政府は「経済財政運営と改革の基本方針」において、対日直接投資残高を150兆円に増やすという目標を掲げています。国連貿易開発会議(UNCTAD)のデータによると、2023年時点で日本の対内直接投資残高は国内総生産(GDP)の5.9%と、世界で4番目に小さい規模となる。2024年末には、対日直接投資残高はわずか53兆円にとどまる見込みだ。

みずほ銀行のチーフマーケットエコノミスト、唐鎌大輔氏は、「日本の対内直接投資に占めるM&Aの割合は約4割に過ぎず、これは先進国全体の水準(約6割)よりも低い。海外企業買収や法規制へのアレルギー反応が、対内直接投資の伸び悩みの要因となっている」と指摘する。

日本の経済力を示す潜在成長率は0%台であり、過去10年間の実質GDP成長率の平均は0.5%と、主要7カ国(G7)の中でも特に低い水準となっている。日本企業が成長の源泉を求めて海外へ進出する中、円安をいかに活用して海外からの投資を日本に呼び込むことができるだろうか。円安がドル高にとどまり、反転しないよう、海外に流出し続ける資金を日本に呼び戻すことがますます重要になっている。