関税は米国の貿易赤字削減に役立つか?
トランプ大統領は関税引き上げの理由の一つとして貿易赤字を挙げているが、高関税にもかかわらず米国の貿易赤字は依然として拡大している。中国との貿易赤字は2017年に比べて20%減少したが、全体の赤字は依然として2017年の1.5倍に増加した。理由は他地域からの輸入の急増だ。
米国の貿易赤字は拡大している。米商務省が2月5日に発表した貿易統計によると、2024年の物品貿易の貿易赤字は1兆2117億ドルに達し、過去最高を記録した。トランプ米大統領は貿易赤字を問題視しており、関税引き上げの理由の一つにしている。
第2次トランプ政権はカナダとメキシコに25%の関税を提案し、4日からは中国にも10%の関税を課し始めた。しかし、関税引き上げが米国の貿易赤字削減に役立つかどうかは不明だ。
米国はトランプ大統領の第一期目の2018年から2019年にかけて、鉄鋼と中国製品への関税を相次いで引き上げた。米国のピーターソン国際経済研究所のデータによると、中国製品に対する実際の実効関税率は2018年初めの3.1%から2019年9月には21%に上昇した。バイデン政権は当初、中国に対する関税の引き下げを主張していたが、最終的にはほぼすべての関税を維持した。米国政府の関税収入は2024年に829億ドルに達し、2017年に比べて2.2倍に増加する。
関税引き上げの対象となっている米国と中国との貿易赤字は、2024年に2,954億ドルになると予想されている。国・地域別にみると、中国との貿易赤字が依然として最大であるものの、2017年に比べ20%減少した。米国からの輸入では、中国は2023年にメキシコに抜かれ、17年ぶりに首位の座から陥落した。
それでも、他国からの輸入が急増したため、米国の全体的な貿易赤字は2017年の1.5倍に増加した。米国の対欧州連合(EU)貿易赤字は1.5倍の2,355億ドル、対メキシコ貿易赤字は2.3倍の1,718億ドルとなった。ベトナムなどからの輸入も増加した。
米国の経済成長に加え、中国以外の国からの迂回輸入貿易も増加していると考えられる。米ゴールドマン・サックスの経済学者ジョセフ・ブリッグス氏は、その規模は2023年には300億~500億ドルに達すると予測している。メキシコなどでは、企業が米国の近くに生産拠点を設ける「ニアショアリング」が推進されている。
上位の国・地域のうち、唯一貿易赤字が増加しなかったのは日本との貿易で、2017年と同じ684億ドルだった。日本は2024年に米国からの電子コンピューターや航空機エンジン部品の輸入を増やした。
2017年1月から2024年12月までの間に、米国の製造業の雇用数はわずか4%増加しました。農業部門を除く総雇用者数の割合は0.4ポイント減少し、8.1%となった。トランプ大統領は関税を利用して産業の米国回帰を促そうとしているが、十分な成果が得られているとは言い難い。
トランプ政権も関税をさらに引き上げることでこの傾向に対抗する準備を進めている。欧州連合に追加関税を課すと表明したことに加え、世界的な関税の課すことも提案した。
しかし、米国経済にとって、対象国や対象分野を限定しない関税は諸刃の剣となり、コスト増加につながる。トランプ大統領がカナダ製品に25%の関税を課すと主張したことに対し、米与党共和党の上院議員らは「農産物の肥料として使われる炭酸カリウムの多くはカナダの生産に大きく依存しており、農業に混乱が生じる」と警鐘を鳴らした。
米国では製造業が集中する「ラストベルト」が大統領選や中間選挙の重要な激戦州となっており、支持者は労働者へのわかりやすい支援政策を重視する側に傾く傾向がある。トランプ大統領は貿易赤字を貿易相手国への「補助金」と呼び、関税を通じて解決するという姿勢を変えなかった。
出典:日経新聞