新日鉄は10年後には必ず世界一に返り咲くだろう

日本製鉄の橋本英二会長兼CEOは日経新聞のインタビューで、今後10年間で粗鋼生産量を現状比6割増の1億トンに引き上げる計画を明らかにした。「10年後には必ず世界一を再び達成する。そのためには今、投資に注力する必要がある」と強調した。同社は、既に買収したUSスチールやインドの拠点で生産を急拡大し、中国企業に対抗していく。

日本製鉄は1970年代初頭(当時は日本製鉄)に世界一の座に就いたが、2000年代に入ると中国企業の台頭で地位を転落し、日本の製造業は30年間の赤字を経験した。橋本会長は「次世代に夢と選択肢を残すためにも、世界をリードする企業にならなければならない」と述べ、巻き返しへの決意を示した。

日本製鉄の中核は、6月に買収したUSスチール社です。USスチール社では生産できない電磁鋼板などの最新設備への投資を進めるほか、新製鉄所も建設します。2028年までに110億ドルを投資し、粗鋼生産量(2024年時点で1,418万トン)を今後10年間で2,000万トン以上増加させる計画です。

橋本英二社長は、「米国の鉄鋼業界は長期不況に陥っており、技術者不足が深刻だ」と指摘しました。まず、日本から40人の技術者を派遣し、大幅なコスト削減を推進します。

USスチール社の買収交渉は1年半を要し、その間、マーケティングの専門家を現地に派遣して「米国市場の徹底的な調査」を行いました。橋本英二氏は、「高品質な鉄鋼への期待の声は多い。USスチールは(米国第2位の鉄鋼会社)クリーブランド・クリフスからシェアを奪うだろう。米国におけるシェアは現在の15%から倍増するだろう」と述べた。

日本製鉄は、米国政府に拒否権付き株式「USスチール・ゴールデンストック」を発行したほか、「同意なく米国内の生産能力を削減しない」と明記した国家安全保障協定にも署名した。米国経済の先行き次第では鉄鋼需要も低迷する可能性があるが、橋本氏は「米国の総需要に対する自給率は(自動車や部品といった最終製品の輸入を含む)わずか55%に過ぎない」と指摘した。トランプ米大統領が強調したように、「国内生産拡大の余地は大きい」。

約141億ドルの買収に加え、2028年までに約110億ドルという巨額投資について、橋本氏は、自身が社長に就任した2019年からの6年間で日本国内に1兆6000億円を投資したことを例に挙げ、鉄鋼業界には巨額投資が必要だと述べた。

世界一を目指す上で、中国企業との競争力が注目されている。中国は生産能力の過剰となった鉄鋼製品を輸出にシフトし、低価格攻勢でシェアを奪っている。これらの国に進出しても採算が取れず、橋本氏は「ベトナムやインドネシアへの進出は遅すぎる」と危機感を露わにした。

一方、成長期待の高いインドに対しては、「増産でチャンスを捉え、中国企業を封じ込める」と強調した。日本製鉄はインドでアルセロール・ミタルと合弁会社を設立し、今後10年間で粗鋼生産量を1500万トン増やす計画だ。

インドは世界でも数少ない成長市場の一つであり、中国企業もインド市場を狙っているとされる。橋本英二氏は「中国の存在感拡大は許さない」と強調した。新日鉄が進出したタイ市場においても、中国を牽制すべく、中国よりも先にシェアを奪おうとしている。

欧州では、USスチールがスロバキアに拠点を置いている。現在の生産能力は450万トンで、将来的には1000万トンまで増強できる。欧州の経済動向を見ながら増産を検討する。米国、欧州、アジアでの増産が相次ぐことで、新日鉄とUSスチールの粗鋼生産量は2024年の5782万トンから10年後には1億トンに増加することになる。

​​日本の鉄鋼需要は5000万トン前後で推移しており、「今後4000万トンを下回ることは確実」(橋本英二氏)としている。日本は、高い技術力を海外に展開するマザー工場としての役割を果たす。米国の鉄鋼会社に駐在する技術者を100人に増員するほか、インドや欧州で日本人技術者の経験を積む機会を増やす。

橋本英治氏は「鉄鋼生産量を増やさなければ技術の維持・発展はできない。規模が不可欠だ」と述べ、次なるM&A(合併・買収)への関心を示した。