日本円と米ドルは損益不均衡の状況に向かっているのか?

小栗泰:日本の参議院選挙が終了しました。与党が過半数を獲得できなかったことで、大幅な円安・ドル高が進むとの見方もありますが、為替市場は依然として落ち着いています。市場の関心は、インフレ懸念が浮上する米国の経済好調さに移っており、円もドルも買えない「負け組」の状況を予想する声が市場で高まっています。

日米の長期的な金利差は、円相場と高い相関性を持っています。過去には、金利差が拡大すると円安、縮小すると円高になる傾向がありました。しかし、6月以降は、金利差の縮小傾向が続いても円安が進むという「歪み」現象が依然として現れています。

この歪みの背景には、財政悪化への懸念から財政支出の増大、すなわち「悪循環の金利上昇」につながりかねない日本の政策がある。

参議院選挙で与党が苦戦するとの見方が広がる中、野党が減税などを通じて掲げる財政拡張的な経済政策は、円安への警戒感を煽っている。しかし、円安が必ずしも米ドルへの資金流入に直結するわけではない。

QUICKは7月17日、円相場が一時1ドル=149円台まで下落した際に金融市場セミナーを開催した。心理的バリアである150円に迫る水準であったにもかかわらず、市場参加者の反応は予想外のものだった。

市場参加者は年末の円相場を1ドル=140円程度と予想し、それ以上の円安は見込めないどころか、むしろ円高への反転シナリオを提示した。今年の春から続く140円から150円の低迷は、基本的に変わらないと見ていた。

参加者の一人、市場リスクコンサルタントの深谷幸司氏は、「為替市場の焦点は日本の政治情勢から、トランプ大統領の今後の政策と米国経済の動向に移るだろう」と指摘した。同氏は、「年末には米国経済の悪化を示す経済指標が出て、市場のドル買いも抑制されるだろう」と予測した。

トランプ大統領の経済分野における二大政策は、関税とドル高是正である。どちらの政策も米国のインフレ圧力を高める可能性がある。また、トランプ大統領が提唱する大規模減税は「悪循環の金利上昇」を誘発し、米国経済の先行きに対する懸念を高めるだろう。

市場の焦点は、日本の財政懸念による円安から、米国の経済懸念によるドル安へと移りつつある。この過程で、投資資金はどこに流れるのだろうか?

みずほ銀行の唐鎌大輔氏は、「主要3通貨の中で、ユーロは最も安全な選択肢だ」と指摘した。ユーロ圏の主軸であるドイツ経済は回復の兆しを見せ始めており、かつて欧州通貨危機の引き金となった南欧経済の財政懸念も高まっていない。

みずほ銀行が米国商品先物取引委員会(CFTC)のデータを基に算出したヘッジファンドなどの投機筋の為替取引動向によると、円の対ドルでの買いポジションは徐々に減少している一方、ユーロの対ドルでの買いポジションは増加しており、2023年12月以来の高値を更新している。為替市場を牽引する投機資金は、円とドルからユーロへと流れている。

円とドルからユーロへと資金が流れている。こうした主要通貨間の力関係の均衡が崩れれば、日米経済が転換期を迎えている可能性も示唆される。内閣府が7日に発表した経済見通しでは、5月の景気動向指数の基調判断が4年10カ月ぶりに「悪化」に転じた。衆議院、参議院ともに少数与党となったことで、今後、政権運営はより厳しい局面を迎えることは避けられない。

一方、米国経済の先行きについては「減速はするものの悪化はしない」との見方が一般的だが、今後、日本経済の先行きに対する市場の懸念が焦点となれば、対ドル、対ユーロでの円売りが強まり、円が「ひとり勝ち」となる可能性も否定できない。